興奮制媒質での波動伝播のシュミレーションに対して、イベントスケジューリングアルゴリズムを応用した新しい方法を提案した(関連論文がPhysical Reviw Eに掲載済み。また、このモデルのさらに包括的な解析をまとめた論文をPhysica Dに投稿中)。この方法は、生体組織である心臓や、今回の研究テーマである神経系に応用でき、これらのシステムで実験的に観察される複雑な動的性質のいくつかを説明することができる(関連論文を国際会議7th Toyota Conference で講演発表、論文は会議録に出版予定)。従来のモデルでは二次元系で定義されていた要素間の結合を、実際の神経細胞のシナプス結合を考慮して要素間の任意の結合(結合の組、強さ)が可能なものとした。シナプス結合には興奮制と抑制性の双方が存在する。しかし、抑制性の結合を取り入れると、イベントスケジューリングアルゴリズムによって一度登録された細胞の発火のイベントを後になって取り消すなどの興奮性結合だけの場合にはなかった問題が生じ、シミュレーションの効果率化の障害となっている。また、従来の工学的な神経回路網のモデルと異なり、本研究では生理学的なニューロンのデータに基づいてモデルを構築することが重要であるので、多くの神経生理学者と議論を行い、重要な知識を得ることができた。情報の符号化に神経細胞の発火率ではなく、時間相関を用いるというダイナミカルセルアセンブリーの考え方は従来の神経回路網の基本原理と大きく異なっている。そこで、さまざまなセミナーや研究会において、この新たな研究の流れを紹介し、物理学、工学などの広い分野の研究者の意見を求めた。多くの場合、神経科学の今後の展開において、このアイデアが有効ではないかという肯定的な意見を得た。本年度の研究で当初計画していた、モデルを用いた神経細胞集団のダイナミクスの包括的な解析は行うことはできなかったが、ダイナミカルセルアセンブリーの考え方を広く紹介し、アイデアをさらに深めることができた。今後の研究課題としては、細胞の活性の時間相関をもとにして形成されるダイナミカルセルアセンブリーという状態がどのようなパラメータの領域で存在可能なのかを今回構築したモデルを用いて重点的に調べていくことが重要である。
|