本研究では、複合核共鳴反応の時間スケールが原子過程と、両程度になると、両過程の干渉が起こる可能性が生じることに注目し、この共鳴状態を経由する散乱荷電粒子の電荷分布を調べることで、イオン-原子衝突系の原子過程に及ぼす共鳴核反応の影響を明らかにするための実験をおこなった。 実験は、京大理学部8MVタンデムバンデグラフ加速器を用いて行った。複合核反応として、炭素による陽子の弾性散乱にみられる複合核^<13>Nの5/2+共鳴状態を利用した。 散乱陽子の電荷分布測定に先立ち、注目する共鳴状態に対する微分断面積の励起関数を調べた。散乱角度は後方135度に選び、標的として炭素箔2ug/cm^2を用いた。入射陽子エネルギー4.78-4.84MeVの範囲で共鳴の励起断面積を測定し、共鳴ピークエネルギー4.805MeVで、半値幅9.9keVのブライト-ウィグナー型の共鳴が観測できた。 この共鳴状態を経由する場合としない場合として、共鳴励起関数の共鳴ピークに対応する入射エネルギー(4.805MeV)と、共鳴ピークを外れる入射エネルギー(4.82MeV)について散乱陽子の電荷測定を行った。この電荷分布の測定については、静電偏向を利用した分析装置を使用し、検出器には半導体位置検出器(PSD)を用いた。 散乱陽子の共鳴ピークエネルギーでの電荷フラクション(+1価の散乱陽子に対する1電子捕獲したものの割合)は4±2×10^<-4>であり、共鳴ピークを外れるエネルギーでの電荷フラクションは8±4×10^<-4>であった。励起関数と電荷フラクションとの相関の可能性を示す結果となったが、本結果だけではデータ不足で詳細な論議は出来ない。データの統計精度を上げ、かつ複数のデータ点で信頼性の高い実験データを蓄積するために、引き続き実験を行なう予定である。
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