南極地域観測隊により採取された氷床コア(H231、みずほ、AC)から薄片試料(厚さ1〜1.5mm)を作成し、これに含まれている気泡を顕微鏡を使い写真に撮影した。この写真をコンピューターに入力し、気泡の形状と数密度を調べた。これは、過去の氷床変動を復元する有力な方法である“含有空気量"の変動メカニズムを明らかにするための基礎研究として行なわれた。以下に解析結果と考察をまとめる。 1.解析結果 (1)気泡形状 気泡の平均体積(V)との氷が形成された地点の年間平均気温との間に正の相関があった。すなわち、年間平均気温が最も低い(-43℃)ACコアではVが最も小さく、年間平均気温が最も高い(-25℃)H231コアではVが最も大きかった。 (2)気泡の数密度 単位体積当たりの気泡の数を気泡の“数密度"と定義するが、この数程度(rho)は氷が形成された年間平均気温との間に負の相関があった。すなわち、年間平均が最も低い(-43℃)ACコアではrhoが最も大きく、年間平均気温が最も高い(-25℃)H231コアではrhoが最も小さかった。 考察 含有空気量は、雪の氷化完了密度の変動に敏感である。これまでの研究により、この氷化完了密度が地点によらずほぼ一定であることが示されていたが、この原因として上記の気泡形状が年間平均気温に対して、それぞれ逆センサで変化し、結果として雪の氷化完了密度をほぼ一定にしていると考えられる事がわかった。また、この事実は氷化の初期段階においては年間平均気温が高い地点の雪のほうが低い地点の雪よりも、気泡体積(単位質量当たりの気泡の体積の総和)が大きいという実験結果を説明できる可能性がある。これらの知見は、含有空気量の地域変動メカニズムを明らかにする上で貴重なデータとなると考えられる。これらの気泡形状・密度の年間平均気温依存性の原因としては、降雪粒子径の温度依存性(堆積直後の初期効果)と堆積後の雪の変態過程(しもざらめ雪形成過程)が考えられるが、これは今後の課題である。
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