本研究では大東諸島の特産種であるヘソアキアツマイマイを材料とし、隔離された島のなかで本種が遂げた進化過程を解析した。特に島の各所から産出する更新世の化石試料に注目し現生集団との比較を通して進化の様式について明らかにした。そして遺伝様式と進化速度の関係、および環境変化が進化に及ぼす効果について考察した。 まず更新世の化石集団と現生集団の殻の量的変異の解析の結果、北大東島南大東島のいずれの島でも共通の時間的変化のパターンが存在することが明らかとなった。すなわち、現生集団は化石集団より大型で、かつ殻の周縁に鋭い角があり、扁平である。従って殻の形態は、島の違いよりも時代の違いによる差のほうが著しく、異なる島で同じ形態への平行進化が生じていることが明らかとなった。現生集団の成貝殻の特徴は、化石集団の幼貝殻の特徴に一致しており、この平行進化が幼形進化のプロセスを反映していることが示唆される。現生集団の電気泳動分析による蛋白質多型の分析によれば、二つの島の集団は遺伝的な多様性に乏しく、また遺伝的にかなり異なっており、互いの島の間で移住はなかたと考えられる。このことから更新世以後の環境変化が集団の幼形進化をもたらしたと考えられる。集団の遺伝的多様性の乏しさは、集団が強い瓶首効果を経ている可能性をしさしており、この種の急速な幼形化は、これによって促進された可能性がある。
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