研究概要 |
本研究では、太平洋からのN-type MORB試料としてDSDP Hole 420,421,429A,504B,597Bの玄武岩を、また、大西洋からのN-type MORB試料としてHole 395,519,522,562,564の玄武岩のCe・Sr・Nd同位体比を測定し、また、希土類元素を表面電離型質量分析計を用いた同位体希釈法で定量した。 その結果、次のようなことが明らかとなった。 1.N-type MORBのセリウム同位体比は、0.0225616から0.0225633という間に入った。これは、epsilonCeで-1.6から-1.0の範囲に相当する。さらに、太平洋と大西洋との間で系統的な差は認められなかった。これは、Tanaka et al.(Nature,333,403-404,1988)によって出されていた、-3.4というMORBの値は例外的なものであることを意味している。また、本研究で得られた平均値、epsilonCe=-1.4が、代表的なMORBのセリウム同位体比であると考えられる。今後、MORBのセリウム同位体比を用いてモデル計算をする場合には、この値を用いるべきである。また、ようやくセリクム同位体比をトレーサーとして用いる基礎ができたともいえる。 2.用いた試料の多くは、なるべく新鮮な試料を用いたにも関わらず負のセリウム異常を示した。これは、変質した海洋底玄武岩には、従来考えられているよりもはるかに普遍的に負のセリウム異常が存在していることを意味している。そのため、変質した玄武岩の負のセリウム異常が島弧火成岩の負のセリウム異常の一因となっているという仮説は、かなり信憑性が高いと考えられ、今後、セリウム同位体比と組み合わせた研究によって、島弧での物質移動の研究が飛躍的に進歩すると期待される。
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