研究概要 |
ビニル位のフッ素は、オレフィンに対して通常の求核性とは逆の求電子性を与える活性化基となり、同時に良好な脱離基としても働く。本研究ではこうしたビニル位フッ素の両性質に着目し、フルオロオレフィンとして2,2-ジフルオロビニルケトン1を取り上げ、その合成ブロックとしての有用性について検討した。 その結果、1は各種求核剤と速やかに反応し、付加-脱離によってその二つのフッ素原子が順次自由に置換できることを見いだした。1にヘタロ元素求核剤としてアルコラート、チオラートあるいはアミンを作用させると、Michael付加とフッ化物イオンの脱離が連続的に起こり、円滑にフッ素の置換生成物を与えた。ここで同様の操作を繰り返すことにより二つ目の置換も進行し、alpha-オキソケテンの混合アセタールを含むO,O-,S,S-,O,S-,N,S-アセタールが得られた。これにより、環状化合物の合成上有用なalpha-オキソケテンアセタール類に対して、極めて一般性の高い合成手法を確立したことになる。アミンとの反応の場合、第一級アミンではフッ素の置換後、脱HFによって異種集積二重結合を有するalpha-オキソケテンイミンを与え、またヒドラジン、アミジンとの反応では、窒素によるフッ素の置換とアミノ基-カルボニル基間の脱水によって環構造を形成し、各々含フッ素ピラゾール及びピリミジンが得られた。さらに、1は環化付加反応においても活性であり、これをヘテロジエンとするアルデヒドとのDiels-Alder反応が進行し、フッ素の脱離を伴うことでalpha-オキソケテンの前駆体として有用な置換ジオキシノンを与えた。 これらの結果、1が種々の合成困難な化合物の有用な合成ブロックとなり、フッ素が「変換可能な官能基」として有効に働くことを示している。この概念は、広く官能性ジフルオロオレフィンに有効であり、フッ素の新しい可能性として今後さらに展開されるものと期待される。
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