エステル合成に代表される脱水縮合反応は有機合成化学において最も基本的な反応の一つであり、古くから数多くの手法が開発されている。しかし、従来知られている脱水縮合反応では、一方の試薬を他方の試薬に対して大過剰に用いる平衡移動反応による手法や、反応温度を高め系内で生じる水を系外に取り除くなどの工夫が必要であり、現在でも当量のカルボン酸とアルコールから収率よくエステルを簡便に得る方法は数少ない。 (1)筆者は、まず、ルイス酸触媒およびp-トリフルオロメチル安息香酸無水物の存在下、カルボン酸シリルエステルとアルキルシリルエーテルを室温で反応させると対応するエステルがほぼ定量的に得られることを見いだした。 (2)次に、本反応の反応機構を詳細に検討し、系内に一旦生成する活性な混合酸無水物とアルキルシリルエーテルが化学選択的に反応するために効率的にエステルが得られてくることを明らかにした。 (3)また、他の求核剤を用いて反応を行うことを試み、アルキルシリルスルフィドまたはフェニルシリルエーテルを求核剤に用いた場合に対応する活性チオールエステル、活性フェノールエステルが収率良く得られることを見いだした。 (4)さらに、求核性の低いアニリンのアミドを温和な条件下で合成することは困難とされてきたが、本反応を用いることによって温和な条件下でそれらを効率的に得ることができた。 (5)ついで分子内還化反応に適用し、omega-シロキシカルボン酸シリルエステルを用いる効率的なマクロライド合成法を開発した。 今後はこれらの反応をさらに簡便かつ有用な手法とするため、カルボン酸とアルコールとの反応を例にとり、それぞれの反応物をケイ素誘導体に導くことなく一挙にエステルを得る触媒的反応の開発を目的として研究を行う予定である。
|