われわれは、室温以上で容易に透明で安定なガラスを形成する有機低分子の創出と、そのガラス状態における物性の解明を目的として、これまでに starburst 分子と名付けたいくつかの新規なpi電子共役系分子群を合成し、これらが容易に室温以上で透明で安定なガラスを形成することを見いだすとともに、ガラス状態における物性の検討を行っている。 有機低分子のガラス形成能は、その分子構造と密接に関係していると考えられるため、ガラス形成能を有するstarburst分子の単結晶を育成し、そのX線結晶構造解析を行うことは、分子構造とガラス形成能との相関を理解する上で、重要な知見を与えると考えられる。 本研究では、分子内にビフェニル骨格を有する starburst 分子 tri(bipheny1-4-y1)amine(TBA)を合成し、そのガラス形成能を検討するとともに、単結晶のX線結晶構造解析を行った。 TBA はその溶融状態を室温で放冷することにより容易に透明なガラスを形成した。示差走査熱量測定により、ガラス転移温度は室温よりはるかに高い 76℃であることがわかった。ベンゼンから再結晶を行って得た TBA の単結晶について、X線結晶構造解析を行った結果、TBA 分子の中央のトリフェニルアミン骨格部分は、トリフェニルアミンと同様のプロペラ構造をとることがわかった。また、ビフェニルが結晶中で平面構造をとるのに対し、TBA の三つのビフェニル骨格部分はいずれもベンゼン同士をつなぐ単結合部分でねじれた非平面構造をとっており、このようなねじれ構造が結晶化を妨げ、ガラスを形成しやすくしていると考えられる。
|