湿原の生物はわずかな環境の変化に対して極めて敏感で、特に水質変化に対する生物相の変遷は、尾瀬ケ原や釧路湿原を始めとして国内外で重大な環境問題となっている。しかしながら、実際に生物相が変化しているにもかかわらず、既存の水質分析法では、汚染の実態がとらえにくく水質の変化が見落とされたり過小評価されるケースが多い。これは、水のサンプリングが、湖沼や河川に比較して極めて困難なうえに、湿原内(特に泥炭地)での流量や流速の正確な測定ができないために、水質をある一定時における水中のイオン濃度として評価せざるを得ないことに起因している。そこで本研究は、湿原水中の栄養塩類を水質に加えて流速・流量も加味した総合的な量(マス)としてとらえるための新手法の開発を目的とし、イオン交換樹脂をトラップとして用い、一定期間内にあるポイントを通過するイオンの総量を測定しようというものである。 本年度は、昨年度までの問題点であった樹脂を入れるトラップの素材について(樹脂の粒径に適合し、かつ泥炭水の動きを妨げず浸透性に優れる)室内実験で検討を続けた。これと並行して、予備的に湿原にイオントラップを設置して、トラップでキャッチしたイオンの量と泥炭水の水質分析結果とを比較してみたが、やはり樹脂を入れるトタップの素材に問題があり、実際よりも過小評価してしまう危険性が指摘された。また湿原の形状やサイズ、泥炭の質、水の供給の違いによって、トラップを放置する期間を考慮しなければならないことが明らかになった。今後は、さらにシステムの充実化を実験室内で試験・検討するとともに、このシステムを湿原の湿原水や泥炭土中に一定期間設置し、その効果を既存の水質分析法や土壌分析法との比較を行いながら検討する。
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