本研究は、コムギヒストン遺伝子の転写調節に関わるbZIP型転写因子HBP-1bの機能を、その解析に必要な遺伝学的実験方法の開発を行ないつつ明らかにしていくことを目的としている。その第一段階として、本年度では、コムギヒストンH3遺伝子がシロイヌナズナの植物体内でどのように発現するのかを調べ、計画した実験が可能かどうかを検討した。 コムギヒストンH3遺伝子のプロモーター領域を、大腸菌グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子のコード領域の上流につないだ。それをレポーター遺伝子として形質転換シロイヌナズナを作製し、異なる10個体以上の形質転換植物におけるGUS遺伝子の発現の様子を、発生段階をおって組織化学的に解析した。その結果、GUS遺伝子の発現が、すでに報告されているイネやコムギでのそれと同様のパターンを示した。このことから、単子葉植物であるコムギのヒストンH3遺伝子の発現制御機構を、双子葉植物であるシロイヌナズナを用いて解析できることが確かめられた。 今後は、まず、bZIP型転写因子HBP-1bあるいはそのアンチセンスRNAを大量に発現させるためのエフェクター遺伝子の作製、及びそれを持つ形質転換シロイヌナズナの作製を行ない、エフェクター遺伝子の大量発現がシロイヌナズナの発生過程にどのように影響するのかを調べる。次に、レポーター遺伝子とエフェクター遺伝子を持つ形質転換シロイヌナズナの交配を行ない、HBP-1bあるいはそのアンチセンスRNAの大量発現が、植物体内でレポーター遺伝子の発現どのように影響するのかについて調べる。現在、エフェクター遺伝子の作製を行なっている。しかし、HBP-1bあるいはそのアンチセンスRNAの大量発現が大腸菌の生育にマイナスに働くためと思われるが、なかなか思うようには進んではおらず、さしあたりその克服に力を入れていく。
|