Podocopina亜目介形虫類のhinge構造は、基本構造をほとんど変化させずに成長するものと、成体になる最後の脱皮段階でその構造を複雑で頑丈なものへと大きく変化させるものとの2つのモードが認められた(前者を漸移型、後者を跳躍型と呼ぶ)。多くの分類群について成体と幼体のhingeを比較観察した結果、近縁分類群の間で、跳躍型分類群の幼体のhingeの形態が、漸移型分類群の成体のhingeに現れる場合が認められた。このような関係にあるペアは、海域〜汽水域に生息するポピュラーな5科中に、計11組が認められた。 更に、漸移型の成体のhingeが跳躍型の幼体のhingeに完全に一致するペア(同亜科異属間にみられる)と、その関係がやや不完全なペア(おもに同属異種間にみられる)とがあることが確認された(前者を完全ペア、後者を不完全ペアと呼ぶ)。 層位学的な関係を検討してみると、1つのペアのなかで跳躍型は常に漸移型よりも古い化石記録をもつことが明らかになり、ここに取り上げた全ての漸移型分類群は跳躍型分類群からpaedomorphosisによって派生していることが示唆される。更に完全ペアの7組中5組までが中新世に派生しているのに対し、不完全ペアはすべて更新世以降に派生した新しい組み合わせであることが明らかとなった。 この結果以下のことが明かとなった。 ・脱皮成長する介形虫類では、hingeの形態が異時的進化により中間形を欠いて形成されることが、多くの分類群で普遍的に起きている。従って、この形質を系統分類学上の指標とするためには、幼体の形質をも考慮する必要がある。 ・異時的なペアのうち、中新世に生じたペアは、一方の成体形質が他方の幼体形質に完全に一致するレベルにまで達しているが、更新世に生じたペアはこの関係がやや不完全である場合が多い。このことは異時性ペアの完成度は時間経過に準じていることを示唆する。
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