本研究は、短繊維複合によりマトリックスにマルチプルクラックを誘起し、準ひずみ硬化特性を有する素材を開発することが目的であり、素材の合成技術の開発に加えて、特に材料微視組織と巨視的破壊特性をリンクしたマイクロメカニックスに立脚した材料開発手法に関する研究を行った。 破壊力学的結合力モデルに立脚し、繊維ブリッジング応力-き裂開口変位関係に基づく材料設計モデルを鋼製した。これによりマルチプルクラックを誘起するための適切な繊維パラメータ(寸法、剛性、含有率)とマトリックスパラメータ(靱性、剛性)及び界面強度の条件を決定する手法を考案した。本研究では、セラミック、ガラス系マトリックスとして、ゾノトライト、コンクリート、発泡ガラスを対象とした。またゾノトライトには種々のポリマー繊維、コンクリート、発泡ガラスにはスチール製繊維を強化要素として用いた。脱水成形により作成したゾノトライト複合材料、および水熱ホットプレス法によるコンクリート複合材料では、上述の設計モデルで予測される条件を満足する合成技術が開発でき、4点曲げ試験および破壊靱性試験によりマルチプルクラックを誘起することができることを確認した。開発された素材は顕著な延性的挙動を示しマルチプルクラックによるひずみ硬化特性を発現させることができた。本手法により合成した素材は、木材の強度、靱性を越えるものであり、木材代替の計量素材としても期待される。とくに、マルチプルクラックを発生させることで変形性能を格段に向上させ得ることがわかった。発泡ガラスについては、強度はマトリックスの2倍、靱性は300倍まで向上したものの、現在の合成技術によっては用いることのできる繊維アスペクト比、含有率に大きな限界があり、繊維のブリッジングのみによる特性の向上にとどまった。しかしながら、より耐熱性にすぐれた高強度鋼を選択できればマルチプルクラックの誘起が可能であることをモデルにより示し、将来の指針を得た。 本研究の遂行により、短繊維複合による脆性材料の高靱化のための材料開発手法の基礎が構成されたといえる。
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