本研究の目的は、混合潤滑の機構を解明するために、表面あらさ構造を自己アフィンフラクタルとして扱い、形状構造のスケールに依存しない一般化された流体潤滑のモデルを構築することである。本年度は、昨年度の研究成果に基づいてしゅう動面のランダムな凹凸をフラクタル次元Dと相関距離lambdaによって記述し、主として傾斜平面スラスト軸受の油膜圧力発生に関して、摂動法による理論解析と流れの数値シュミレーションを行って、以下の結果を得た。 1.傾斜平面軸受のレイノルズ方程式を、摂動法とグリーン関数により変形し、あらさのフラクタル構造を自己相関関数の形で支配方程式中に与えることができた。 2.これに基づいた数値計算により、一次元横方向あらさ(transverseあらさ)を有する無限幅軸受の負荷要領の期待値は、相関距離lambdaが大きい場合にはフラクタル次元Dが大きいほど大きく、lambdaが軸受寸法に較べてかなり小さい場合にはDが大きいほど小さくなることがわかった。これは、負荷容量を増加させるあらさの効果が、それに含まれる変動波長の大小によって異なるためである。 3.フーリエフィルタ法によって作成した疑似フラクタル表面データ用いて、上記問題及び等方性あらさをもつ有限幅傾斜平面軸受の流れの数値シュミレーションを行った結果、負荷容量の期待値については上記理論と類似の結果を得た。しかし、個々の表面に対する負荷容量は、Dによる違いよりも、あらさ中の大きな波長の成分がどう配置しているか、例えば軸受の出口に山があるか谷があるか、に大きく依存し、また同一条件での負荷容量のばらつきは、Dが大きいほど小さいことがわかった。 流体潤滑におけるフラクタル表面の巨視的な挙動に関しては以上の知見が得られたので、現在は次のステップとして、混合潤滑状態での油膜破断に直接関係すると考えられる、ミクロな突起近傍での油膜圧力発生に関する解析を計画中である。
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