1研究実施計画に従い、まず、液化した不活性気体(アルゴンの液体層)の真空下での蒸発を分子動力学法により数値解析し、気液界面の構造、蒸発分子の数流束角分布等を明らかにした。新たに得られた知見は以下のとうりである。 (1)真空下での蒸発現象を、分子動力学法を用いて分子レベルで解析できることがわかった。しかし、物理量の十分な解析には、スーパーコンピューターを用いても非常に長い時間(100時間のオーダー)の数値計算を要した。 (2)平衡系において気液二相間に現れる密度が連続的に変化する薄い層が、真空下での蒸発においても現れる。 (3)この層の外側に、流速が、急激ではあるが連続的に変化する薄い層が現れる。 (4)蒸発分子の数流束角分布は、界面では余弦分布に従うが、これは界面の上方で急速に変形し、界面からわずか数100A^^°程度のところで、界面に垂直な方向にコリメートされた分布に落ち着く。(2)〜(4)については、分子動力学法を用いることによってはじめて明らかになることである。特に(4)については、気体論に基づく解析における慣用の境界条件の見直しの必要性を示唆するものであり、重要な結果である。ここまでの成果については、すでに論文としてまとめ、現在、日本機械学会論文集に投稿中である。 知見(1)の事情から、本課題のような蒸着装置内部での物理現象の解明には、現状では、従来行われてきたようなモンテカルロシミュレーションに頼らざるを得ないといえる。実験的研究から示唆されている、蒸発した金属原子の励起電子の持つエネルギーが並進運動エネルギーに移行する過程を取り込めるようなモデルが、唯一アメリカの研究グループから提案されており、現在このモデルの妥当性を検討中である。
|