半導体の量子構造が従来に無い優れた電気的・光学的特性を示すことが示されている一方で、微小な光共振器を用いることによって空間軸および周波数軸に於いて真空場の制御を施す手法が注目を集めている。この両者を結合させ(結合量子系)、光と電子系との相互作用を超高速応用に適した形に改善し、21世紀のエレクトロニクス・オプティクスに極めて魅力的なフェムト秒・THz領域の工学的開拓の可能性を探索する第一歩が本研究の目的であった。具体的には、上記の結合量子系を試作し、その非線形光学特性に主眼をおいて評価・検討し超高速光素子としての性能を解明するための実験を行った。その結果、次のような将来に希望を抱くことのできる結果を得た。(A)まず、微小光共振器内の量子井戸構造にピコ秒以下の時間幅を有する光パルスによりキャリアを発生させ、そこから発生される蛍光のスペクトルとその減衰時間を精密に測定した。この際、本予算で購入した自動波長駆動装置を備えた分光器を用いて減衰時間の波長依存性を詳細に調べることができた。ここで判明したことは、(a)上記結合量子系は不均一なエネルギー広がりを有する量子井戸構造の場合には複雑な蛍光スペクトルを示す、(b)前述の結果は、「光励起キャリアに対して微小光共振器が発光性再結合時間の変調を通じて、拡散過程や非発光性再結合速度を変調し、ダイナミクス大きく変化させている」というモデルによって解釈できる、という二点である。(B)次に、歪み量子井戸構造を用いて結合量子系を作製し、ピコ秒領域の時間幅を有する光パルスに対する透過特性を測定した。この際、三種類の特性波長、(1)光共振器の共振波長、(2)量子井戸内励起子の遷移波長、(3)光パルスの波長、の間の離調量を調製しながら、透過係数を比較した。その結果、標準的な量子井戸のみの試料と比較して約10分の一以下のパルスエネルギー値において非線形性が発現し、パルス波形の劣化も無いことが判明した。
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