本研究の目的は、SiGe系間接遷移型半導体において、誘導放出が可能であることを実証し、その発光機構を明らかにすることであった。即ち、励起子閉じ込めおよびミクロな組成揺らぎに基づく励起子の局在効果により、発光効率が著しく増大することが期待された。具体的には、SiGe/Si量子井戸構造を作製し、これを光ポンピングすることによって、赤外の誘導放出光を確認しその発光機構を究明することであった。 高抵抗Si(100)基板上に、分子線エピタキシ-法により、Si/Si_<1-x>Ge_x/Si(0.1≦x≦0.3)の量子井戸構造を作製し、この試料に波長337nm、パルス幅10nsのN_2パルスレーザを<100>方向に照射し、<011>方向への放射光を分光した。この時のレーザーパワーと放射光の発光強度および発光スペクトルの関係を、20〜300Kの範囲において調べた。しかしながら、SiおよびSiGeに対応する自然発光スペクトルのみが観察され、誘導放出と思われるシャープな発光線は見られなかった。また、Si_xGe_<1-x>層のGe組成を連続的に変化させ、キャリアに対する大きな揺らぎポテンシャルを形成させた試料においても、同様な実験を行ったが誘導放出光は観察されなかった。 また、他の実験として、p型のSi_<0.9>Ge_<0.1>の伝導率、正孔濃度および移動度の温度特性を10〜300Kの範囲で調べた。その結果、温度の減少とともに伝導率は増加したものの、50K程度において急激に減少しその後一定値になった。同時にホール効果から、移動度およびキャリア濃度を求めたところ、この現象はSiGe内の圧縮歪のために、重い正孔バンドと軽い正孔バンドが分裂し、低温においては重い正孔のみが伝導に寄与するためであることがわかった。
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