今年度は、誘電体被覆回折格子の上を伝搬する相対論的電子ビームによる電磁放射への誘電体損の影響について数値解析を行った。研究成果を要約すると以下のようになる。ただし、数値計算では誘電率の実部を2としている。 1.スミス・パーセル放射を決定する漏洩係数は、誘電率の虚部が10^<-4>よりも大きくなると僅かに減少を始め、10^<-2>になると、約0.97パーセント程度小さくなる。 スミス・パーセル型FEL不安定性の時間的増大率は、誘電率の虚部が3×10^<-4>よりも大きくなると僅かに増加を始め、10^<-2>になると、約0.98パーセント程度大きくなる。 チェレンコフ不安定性の空間的増大率は、誘電率の虚部が3×10^<-4>よりも大きくなると僅かに増加を始め、10^<-2>になると、約0.96パーセント程度大きくなる。 以上より、誘電体損の存在により必ずしも相互作用は小さくならないことが分かった。その理由としては、負のエネルギ波と正のエネルギ波の結合により不安定な相互作用は引き起こされるので、誘電体損によるエネルギlossは負のエネルギの一部として相互作用に影響を及ぼしているのではないかと考えられる。 これらの研究成果は、1994年電子情報通信学会春季全国大会で発表予定である。 また、本研究の放射系の構成では、3つの相互作用のうち適当な電子ビームの速度の下で2つの相互作用、即ちスミス・パーセル放射とチェレンコフ不安定性およびスミス・パーセル型FEL不安定性とチェレンコフ不安定性とが結合し、より大きな不安定性増大率を示すことが分かったので、今後はこの点も考慮に入れて、詳細な議論をする予定である。
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