被験者に対してCRTに提示される簡単な足し算を計算させ、その事象関連脳波を計測した。そのままでは計測された事象関連脳波は統一的な傾向を見い出せないので、新たなプロトコルを導入した。それは、rare刺激として計算(加算)課題と認知課題、frequent刺激として減算課題を与え、計算課題の事象関連脳波から、認知課題の事象関連脳波を刺激のペア成立ごとに逐次差し引いて、その結果を加算平均するものである。このことにより、計算課題に含まれる情報処理心理過程から、認知課題に含まれる認知までの同様な情報処理心理過程を差し引くことができ、計算処理に関連した脳波を特徴的に抽出することができた。その結果計算関連脳波成分を認知関連脳波成分のP3から分離することができ、陽性のP3に対して陰性の計算脳波成分として抽出できた。 上記計算関連脳波が計算によるものか、長期記憶から数値関係を引き出しているだけなのかを検討するために、記憶想起課題を考案し、その時の事象関連脳波を逐次差分法を用いて同様に計測評価した。その結果記憶想起に関連する脳波は、陰性成分の脳波であることがわかった。 上記計算関連脳波および記憶想起関連脳波の出現部位をトポグラフを用いて検討した。その結果暗算課題は左側前頭野、想起課題は左側前頭前野を中心に発生し、課題遂行に入力作業をともなう計算入力課題・想起入力課題の事象関連脳波は左側頭頂部を中心に発生することがわかった。単なる入力課題は頭頂部に発生するため、その影響を強く反映したものと考えられる。また、認知課題によるP3脳波との出現部位の違いから、逐次差分法により抽出した計算課題などに関連した脳波は、単なる差分によるア-ティファクトではないことを確かめた。以上、計算にともなう脳内情報処理過程解明の基礎的データを取得できた。
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