研究概要 |
新しい窒化物の報告が近年増しているが、これらの中で実用に供されているものは少ない。この原因には窒化物合成の困難さに加えて、生成物の熱的安定性が挙げられる。本研究では窒化物の熱的安定性に着目し、実験と理論計算の両面から検討を行った。 加熱実験の試料には、超微粒子を分散させたナノ複合体が注目されていることを踏まえ、Si_3N_4-FeN_y系複合膜を用いた。試料はFe/Siの複合ターゲットを用い、窒素雰囲気中での反応性スパッタにより作製した。X線および電子線回折測定およびXAFS測定の結果、生成膜はアモルファス膜であり、鉄の最近接原子は窒素であることが分かった。生成膜をアンモニア中で加熱したところ、300℃では6時間の加熱を行った後でもXRD図形に変化は見られなかったが、500℃ではepsilon-Fe_XNの生成が見られた。Ar中での加熱では、500℃で6時間加熱すると、膜中のはFe/Si比に関係なく、a-Feが生成した。さらに1000℃での加熱では、Fe_3Siとalpha-Feおよびgamma-Feが生成した。Ar中での加熱では明らかに窒素の脱離とそれに続くケイ化反応が考えられ、加熱時の発生ガス分析の結果を現在詳細に検討している。 加熱実験と並行して、DV-Xalpha分子軌道計算を行った。第1遷移金属窒化物において、TiNは2930℃に融点を有するが、上述のFeN_yではgamma'-Fe_4Nの680℃を最高により窒素量の多いFeN_yではそれ以下の温度で分解し、この分解温度は価電子数が増加すると低下する。そこで、TiN-MN(M-V,Cr,Mn,Cu,Al)系のモデルクラスターでMO計算を行った。その結果、価電子数の増加に伴いTi-M間の結合次数の低下が見られ、このことが分解温度の低下と相関があるのではないかと考えられる。従って、多元系窒化物の熱的安定性を保つためには、価電子数が増大しないように端成分の組み合わせをする必要があることが分かった。
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