マイカ・ガラスセラミックスでは、圧縮において通常のセラミックスの20倍もの大きな形状回復量を示す。これは、高温域でガラス相が軟化したときに、ネットワーク状に連接したマイカ結晶が全体としてバネのように動くためである。本研究では、このメカニズムを応用し、マイカ・ガラスセラミックス組織にウィスカを補強材として導入し、ネットワーク組織を強化することにより回復量を増大させる、形状記憶複合セラミックスの試作を目的とした。原料として、マイカ・ガラスセラミックス粉末と炭化珪素ウィスカを用いた。最初に、試験材料の作製のために、炭化珪素発熱体を使用した酸化雰囲気中で1800K前後まで加熱可能な炉を試作した。次に、マイカ・ガラスセラミックス粉末を加熱溶融して一旦グリーンガラスにした後に、再加熱によりネットワーク状結晶組織を再現するための条件を求めた。その結果、溶融1670K4h、析出1240K15hにてネットワーク組織の再現に成功した。次に、ウィスカを1〜10wt%混入し、作製実験を行った。当初は材料に多量の気泡が発生したため、原料粉末に少量の水を混ぜ、撹拌した後に圧縮成型、乾燥させた後に溶融/析出させる製造法をとり、気泡の発生を押さえた。しかしながら、実験の結果、(1)混入したウィスカが結晶発生の核となり、マイカ結晶の析出条件が大きく変化し、析出速度が早まり、結晶の粗大化が起こること。(2)ウィスカなどの異物の存在は結晶ネットワークの組織形態に影響を及ぼし、フェライト混入マイカ・ガラスセラミックスのような松葉状組織に変化すること。(3)SiCウィスカとグリーンガラスとの濡れ性が悪く、ウィスカが分離してしまうこと。等が明らかになった。よって、形状記憶複合セラミックスの実現には、グリーンガラスと濡れ性がよく、結晶の析出になるべく影響を与えない補強材を探索することがなによりも重要である。
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