有機合成化学へのレーザーの応用の一環として、炭化水素の酸化反応を対象として選び、レーザーを用いたラジカル連鎖反応の制御の可能性を検討した。 1.シクロヘキサンからのシクロヘキサノール、シクロヘキサノン合成について、酸素を溶存させた液相のシクロヘキサンにKrFエキシマーレーザーを照射した結果、高い選択率(80%以上)で目的含酸素化合物が得られた。溶存酸素濃度や照射レーザー光の強度を変えた実験を行ない、反応速度のレーザー強度依存性や、酸素の溶解速度と反応速度の関係を定量的に把握した。 同酸化反応を気相で行なった場合、反応の初期過程となる光吸収が起こらないため、開始剤を添加することが必然であり、生成物分布や反応機構を複雑にしているのに対し、液相反応では、基質と酸素のみで反応が進行したことから、よりクリーンで実用的な系の構築の可能性が示された。 2.酸素分子によるエタンのレーザー光誘起部分酸化反応を、基質自身の超臨界相中、及び超臨界二酸化炭素中で行ない、生成物分布の条件依存性を定性的、定量的に把握した。その結果、臨界圧力付近での高密度領域では、反応速度の極大が観察され、またアルデヒド、アルコールなど含酸素化合物の選択率が大きく上昇することを確認した。同系の反応機構を議論する上で重要な鍵を握る光吸収挙動に関して、吸収スペクトルからその特徴を明らかにし、酸素-媒体の相互作用による光吸収挙動の変化を議論した。
|