研究概要 |
本研究では、高分子と指示薬の複合薄膜の吸収スペクトルに及ぼす極性ガス収着の影響を調べるとともに、その光検出型ガスセンサへの応用を目指している。今回は、高分子としては、エステル化したセルロース誘導体やポリメチルメタクリレートを、指示薬としては、4-nitro-N,N-dimethylaniline、4-Nitroaniline、4-Nitroanisole及び2,6-Diphenyl-4-(2,4,6-triphenylpyridinio)phenolateを用い、吸収スペクトルへの雰囲気湿度の影響を調べた。それぞれの指示薬は、溶液中では、溶媒の極性や水素結合供与性、水素結合受容性に応じてスペクトルが変化する(ソルバトクロミズム)ことがすでに知られている。 今回の補助金によって、雰囲気の湿度を変えて吸収スペクトル測定を行うための特製の石英セル、またセルに複合溶液を塗布した後で薄膜化するために、セルごと熱処理できるプログラム電気炉を購入することができたため以下に述べる有益な研究成果を上げることができた。 乾燥雰囲気中でそれぞれの指示薬を複合した高分子膜の吸収スペクトルを測定すると、吸収強度及び波長が、用いた高分子膜の化学構造の違いに影響された。この波長シフトから求めたソルバトクロミックパラメータは、既に溶液中で報告されたものと良い相関性があり、高分子膜中の環境を反映して得られたものであることが分かった。 さらに、湿潤雰囲気下でスペクトル測定を行うと、複合膜が水を吸着することによってもスペクトルがシフトすることがわかった。しかも、吸着水に対して得られたパラメーターは、高分子膜の性質の違いによってその挙動が異なっており、高分子膜への水吸着挙動を、従来にない分子間の相互作用の立場から議論できることがわかった。 吸収スペクトルへの湿度の影響は再現性が良く可逆的であった。用いた指示薬の中では2,6-Diphenyl-4-(2,4,6-triphenylpyridinio)phenolateが、湿度の変化に対して最も大きなスペクトル変化を示し、感度の大きな湿度センサとなることが分かった。
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