光駆動型人工制限酵素の「はさみ」の部分である色素(光増感剤)として、今までクロロフィルの誘導体とキサンテン系色素を開発してきた。これらの色素は従来開発されてきた色素と大きく異なり、酸素が存在しなくても核酸を切断できる。この特性は、細胞内のような嫌気的な条件下で作用させる上で非常に重要である。しかし、これらの色素が、嫌気条件下で、効率よく機能できる濃度は10^<-4>Mと高い。 ところで最近我々は、希土類が核酸を加水分解することを見いだした。希土類を人工制限酵素の「はさみ」として使用するためには、希土類錯体にしてDNAの末端に結合しなければならない。 このような観点から本研究では、いくつかの希土類錯体を合成して核酸の光切断を試みた。その結果、セリウムまたはランタンを中心金属に有する錯体が、可視光照射によって驚異的な切断効率を示すことを見いだした。 配位子を持たない希土類のみでは、光を照射してもDNAは切断されないことから、希土類が直接光励起されてDNAを切断しているのではなく、先ず配位子が光励起され、次に配位子から希土類にエネルギー移動が起こり、活性化された希土類がDNAを切断していると推定される。 先に述べたように、細胞内は嫌気状態であることから、酸素不在でもDNAの光切断が進行しなければならない。そこで、系から溶存酸素を除去して実験を行ったが、光切断効率は全く変化しなかった。また、DNAの光切断は、10^<-6>Mの低濃度でも十分進行した。 以上のように、人工制限酵素の「はさみ」として十分な機能を持つ色素の開発に成功した。今後、この色素をDNAの末端あるいは中間に結合させ、光駆動型の人工制限酵素として機能するかどうか検討する予定である。
|