近年、有機合成化学の新手法として有機溶媒中における酵素反応の利用が注目されている。しかし、これまでの研究対象は殆どが加水分解酵素であり、酸化還元酵素の研究例は大変少なかった。これは有機溶媒中における効率的な補酵素の再生系や電子伝達系の構築が大変難しい為である。一方、我々はこれまでに種々の複素多環系オルトキノン類の化学的機能について詳細に検討を加え、それらが種々の酸化還元反応において非常に効率のよい電子伝達触媒として機能することを見い出している。そこで本研究では、このような複素多環系キノン類の電子伝達機能を利用し、有機溶媒中における酸化還元酵素の機能化とその応用開発を目的として検討を行った。 電子伝達触媒としては、補酵素PQQやそれと類似の構造を有する各種ピロロキノリンキノン誘導体、インドールキノン誘導体、キノリンキノン誘導体、さらにより入手しやすいフェナンスロリンキノン誘導体などを用いた。酵素反応としては主にアルコール脱水素酵素によるアルコール類の酸化反応を取り上げ、種々の反応条件や基質の適用範囲について検討を行った。特に有機合成化学への応用を目的とし、有機溶媒の種類や基質特異性および立体選択性について詳細に検討を加えた。さらにジアホラーゼやカタラーゼのような酸化還元酵素の添加効果についても検討し、反応条件の最適化を行うとともに、本系の応用範囲を拡張することに成功した。これらをさらに発展させ、各種電子伝達メディエーターを利用した有機溶媒中における新規な複合酸化還元酵素反応系(カルボニル化合物の立体選択的還元反応や酸素添加反応など)についても検討し、予備的知見を得た。
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