研究概要 |
様々な応用が期待される高分子ゲルについて,ゲル内の高分子鎖の性状等に関する知見を得るために 1)オートクレーブを用いて高温,高圧条件下でポリビニルアルコール(PVA)とポリアクリル酸(PAA)からなるゲル(PVA-PAA)を作製し 2)作製したゲルについて,ゲルの両側に圧力差をかけたときに発生する電位差の経時変化を測定した. PVA-PAAゲルは,初期混合時におけるPVA(重合度約2000)とPAAの重量比を0.3〜3.3と様々に変え,130℃,2気圧のオートクケ-ブ中で作製した.いずれの混合比においても強靭なゲルが得られた.しかし,ゲルの交換容量は,PVAに対するPAAの重量比が1.5程度までは,加えたPAAの量の増加とともに大きくなったが,それ以上では逆に減少した.この結果は,ゲル形成にはPAAはあまり関与していないことを示唆している. 続いて,これらのゲルを膜状に成形し,圧力差に基づく電位差の経時変化を測定した.測定は,ゲル膜の両側に静水圧で圧力差をかけ,発生した電位差は振動容量型のエレクトロメーターを通してパソコンに読み取り,データの解析を行った.解析に際しては,電位差の経時変化を圧力差によって引き起こされるゲル内高分子鎖の緩和過程とし,その経時変化の緩和時間を求めた.多成分系の高分子膜では,全体の緩和過程がそれぞれの成分の緩和過程を加え合わせた形で示されることが多いのに対し,今回のPVA-PAAゲルは,2成分系であるにもかかわらず,その経時変化は単一の緩和過程で示された.これは,PVAとPAAが同じビニル系の似たような高分子鎖であることと,構造的にはPVAのネットワークにPAAが均一に分散した形になっているためではないかと考えられる.また,得られた緩和時間は300秒程度で,エステル化により作製したPVA-PAAゲル等と比べると,非常に柔軟性に富んだゲルであることがわかった.
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