研究概要 |
染色体複製様式および構造に基づく新しい視点から植物ゲノムに関する知見を得るため以下の実験を行った。 1.染色体各部位の複製時期がその部位に固有のものであるか否かを明らかにするため,オオムギを供試材料として,染色体複製時に取り込ませたBrdUを抗BrdU抗体-ビオチン・ストレプトアビジンシステムを用いた酵素抗体法によって検出し,その分布パターンを調査した。無染色標本で識別可能な第6および第7染色体の複数バンドの観察を行ったところ,両染色体において晩期複製部位は特定の部位に比較的安定して検出されることが明らかとなった。 2.構造変異によって複製パターンが変化するか否かを明らかにするため,オオムギ品種竹林茨城1号を原品種とする相互転座系統6系統を供試し,BrdUを用いて第6および第7染色体短腕が転座した染色体の晩期複製バンドを解析した。その結果,転座部位の晩期複製バンドパターンは,転座点の位置および転座した染色体の種類によって変化しないことが明らかとなった。さらに,第6染色体短腕の一部が転座した染色体では転座点のない方の染色体腕の晩期複製パターンも変化しないことが明らかとなった。またこの観察から,第6,第7染色体に加えて,第4染色体の晩期複製バンドのイディオグラムを作成することができた。 3.上記3染色体の晩期複製部位とC-バンド部位のパターンは類似していたが同一ではなく,C-バンド部位が必ずしも均質でないことが示唆されると共に,晩期複製部位が染色体上の新たなランドマークとなることが明らかとなった。 4.5-azacytidine(AC)処理による狭搾形成パターンと上記晩期複製パターンとを比較したところ,両者の染色体上の位置関係は一致せず,AC処理による狭搾の形成には染色体複製以外の要因も関与していることが示唆された。また,ACとBrdUの重複処理は,根端分裂細胞の同調化が重要であるが,単独処理に比べ,より詳細な解析を可能にすると考えられた。
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