研究概要 |
根圏細菌の生態に関する研究手法としてこれまで有効なものがなかったため、植物根圏における細菌の挙動や根への定着プロセスに関する知見は極めて不十分なものである。そこで、植物根圏での細菌の挙動を直接、解析する技術を確立し、細菌の根圏定着機構および根圏環境因子の影響に関する有用な情報を得ることを目的とした。 特定細菌の植物根圏における時間的・空間的変動をin situでモニターするためのマーカーとして、生物発光(bioluminescence)レポーター遺伝子の利用を検討した。根圏細菌を安定に標識するため、トランスポゾン転移によって遺伝子を細菌染色体に導入するシステムを使用した。挿入因子IS1由来の人工トランスポゾンベクターpJFF350の転移領域には転移に必要なトランスポザ-ゼがコードされておらず、トランスポ-ゼはトランスに供給されるため、細菌染色体への転移後は安定で再転移が生じない。この転移領域中にVibrio harveyi由来の細菌性ルシフェラーゼ遺伝子(luxA,B)をconstitutiveに発現するように挿入したプラスミドを作製した。これを特定細菌へ接合伝達法により導入したところ、細菌染色体へのlux遺伝子の染色体への安定な組み込みが可能であった。根圏より分離した高い根圏定着能を有する数種のPseudomonas属細菌にlux遺伝子を導入し、lux遺伝子の発現を確認した。これらの細菌を種子あるいは土壌に接種し、植物を栽培後、根を取り出して、フィルムへのオートフォトグラフィーによる根表面での直接的な検出を行った。lux遺伝子を持つ標識細菌は基質の添加により発光し、細菌密度10^3CFU cm^<-1>rootまで検出可能で、根系における標識細菌の分布を高感度で明確に示すことができた。 この技術は、根への細菌定着のダイナミックスに関する研究にとって非常に有効なものであり、今後の根圏微生物生態研究および有用細菌の接種技術等の応用研究の進展に大きく寄与するものと考えられる。
|