本研究はルーメン内藻菌の不飽和脂肪酸代謝への関与について明かにするため実施したものである。以下のような実験を行い、いくつかの新知見を得た。 1.プロトゾアの存在しない羊のルーメン液を採取し、これに適切な抗生物質を加えることで細菌か藻菌のみの培養系、および細菌と藻菌共存培養系を作った。リノール酸を添加培養したところ、細菌のいる培養系ではリノール酸は速やかに消失し、代わってステアリン酸が増加した。一方、藻菌のみの系では多量のオレイン酸が蓄積した。また藻菌細胞のオレイン酸含量が非常に高かったことから察しても、藻菌がオレイン酸を体構成分として取り込んでいる可能性が高いことがわかった。そこでこれを検証する実験を組んだ。 2.羊ルーメンより単離した藻菌株を用いて、添加したオレイン酸の減少量を測定したところ、培養開始後24時間で約50%のオレイン酸が消失し、以後96時間目まで減少が確認された。この時メタン菌が共存する方がやや減少量が多い傾向にあった。これらは最初の実験結果から示唆された可能性を支持するものであった。 3.次にオレイン酸が藻菌の体内へ取り込まれていることを実証するため、^<14>C標識オレイン酸を培養時に加え、藻菌体内への^<14>Cの移行を調べた。^<14>Cの約10%が藻菌体内に取り込まれ、その内54%が極性脂質すなわちに存在した。さらに全脂質画分から脂肪酸を抽出し、飽和および不飽和に分けて^<14>Cをカウントしたところ、96‐100%が不飽和脂肪酸に存在することをつきとめた。 以上の結果より、藻菌オレイン酸を体成分として取り込むことで、ルーメンでのオレイン酸代謝に直接貢献していることが明らかになった。
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