胎盤組織には、異なった糖鎖構造を有する糖タンパク質・糖脂質が妊娠時期特異的に出現することから、妊娠の進行と胎盤における糖鎖合成を司る糖転移酵素発現の関係は大変興味深い。本研究では、妊娠時期の胎盤の糖転移酵素の遺伝子発現を調べることにより、胎盤の糖鎖発現機構を解析する。これにより、胎盤における糖鎖合成の分子レベルでの調節機構および機能発現機構について重要な示唆が与えられると予想される。 本研究では、ポリメレースチェインリアクション(PCR)法を用いて胎盤中のSTの検出を試みた。最近、各種シアル酸転移酵素(ST)間で相同性の高い塩基数約150の遺伝子配列セット、すなわちシアリルモチーフの存在が知られるようになった。そこで、まずシアル酸a2→3結合特異的、あるいはシアル酸a2→6結合特異的な各STのシアリルモチーフに特異的なプライマーの合成をおこなった。妊娠16日目のラット胎盤のcDNAを合成しこれを鋳型とし各プライマーを用いてPCRをおこなったところ、シアル酸a2→6結合触媒STに特異的なプライマーを用いた場合にのみ、100bpおよび150bpのPCR産物を得た。このうちシアリルモチーフの塩基数に一致する150bpのPCR産物の塩基配列を決定したところ、現在知られているどのSTの塩基配列とも一致しなかった。このことから、胎盤中では未知の触媒活性を持つSTが発現しており、これが糖タンパク質あるいは糖脂質の発現に関与していることが強く示唆された。この新規配列によってコードされているタンパク質がどのような基質特異性を有しているのか、あるいは妊娠のどの時期に発現しているのかに興味が持たれる。これらの解析を通して、今後、胎盤における複合糖質の発現とその生物機能に関する研究を展開することができるであろう。
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