研究概要 |
私共は、ウシや、ラットの脳内に褐色脂肪組織での脂肪合成を促進する因子を見出し、この作用因子を脳由来脂肪合成促進因子(Brain-Derived Lipogenic Factor,BDLF)と名付けた。本研究では、BDLFを単離・精製し、アミノ酸配列の決定とcDNAクローニングを試みた。 まず、約12kgの牛の全脳を、蛋白分解酵素阻害剤であるPMSFとleupeptinを含む5倍量の水でホモゲナイズし、遠心して上清を採取した。これに乳酸を加えてpHを3.5とした後、もう一度遠心して沈澱物を除いた。更に上清にtriethanolamineを加えてpHを7.0に戻した後、再度遠心し、得られた上清を粗抽出液として使用した。この粗抽出液は脂肪など阻害因子を多く含み、脂肪合成活性を検出することはできなかった。しかし、これをイオン交換樹脂に吸着させ、濃度勾配溶出によってクロマトグラフィーを行なうと、BATの脂肪酸合成を強く促進する活性画分が得られた。更に、この活性因子を疎水性クロマトグラフィーにて分画した後、ゲルろ過によって分離すると、インスリンよりやや大きい分子量約6500の画分に強い脂肪酸合成促進活性が検出された。この活性画分を逆相系HPLCによって分離したところ、BDLFはほぼ単一のピークとなった。 脂肪組織に作用して脂肪酸合成を促進する因子としては、これまでインスリン、IGF-I、IGF-IIが知られている。BDLFもまた、トリプシンを作用させるとその脂肪酸合成促進活性が消失することから、ポリペプチドであると考えられる。しかし、逆相系HPLCにおいて、BDLFが溶出される位置は牛インスリンやIGF-I、IGF-IIと異なっており、約31%のacetonitorile濃度にて溶出された。BDLFの最終精製標品は約400ngと微量であるが、今後これを用いてアミノ酸の部分配列を決定し、cDNAクローンから全一次構造を明らかにしたい。
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