本年度の研究では、まずシグナル伝達系タンパク質Src、Fyn、Lck、Vav、PLCgamma2、およびPI3K-p85のおのおのに含まれるSH3領域をPCR法で調製して、pGEX-2TまたはpGEX-3Xベクターに組み、大腸菌の大量培養において各GST-fusion proteinを得た。次に、各SH3/GST fusion proteinをビオチン化してプローブを作成し、rat embryo cDNAの発現ライブラリーよりWest-Western法を用いたスクリーニングを行なった。その結果、Fyn-SH3/GST fusion proteinと特異的に強く結合するクローンを得、現在塩基配列の決定を含めた解析を行っている。得られた一部の配列についてデータベース中に検索を行なった結果では、高いホモロジーを持った既存の配列は見出されておらず、本クローンが未知の種類のものであることが示唆された。一方、Fyn-SH3/GST-fusion proteinをグルタチオンアガロースビーズに結合させたものをアフィニティーカラムとし、培養細胞の抽出液中から結合してくるタンパク質をSDS-PAGEにより分離したところ、いくつかの特異的バンドがクマッシ-ブルー染色で判別できた。このうち70kDのものをゲルから精製し、そのトリプシン処理断片を逆相HPLCで分離後、各ピークのアミノ酸配列を気相シークエンサーにより分析した結果、このものがGAP-binding phosphoprotein p62であることが示唆された。SH3領域はプロリンを多く含む独特な配列に結合することが報告されているので、p62の配列中に複数見出される類似の配列をそれぞれGST-fusion proteinとして発現させ、一連のSH3/GST fusion proteinとの結合を調べたところ、p62の各配列がSH3の異なったサブセットとそれぞれ特異的に結合することが見出された。今後これらの結合の持つ機能的な意義について解析を続ける予定である。
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