我々の分離したP糖タンパク質の発現してない多剤耐性変異細胞株C-A500では、細胞内へのアドリアマイシンの蓄積が親細胞に比べて著しく低下しているが、その完全復帰変異細胞株C-ARでの細胞内蓄積は親KB細胞とほぼ同程まで回復していた。また、C-A500細胞で見られたアドリアマイシンの細胞内蓄積の減少は、ATPを枯渇させるよな条件下では見られなかった。このようなC-A500細胞での抗癌剤の細胞内蓄積の減少は、ATP依存性の抗癌剤排出の亢進によるものであった。更にC-A500細胞では、WGA結合性の糖鎖を有する分子量約190-210kDaの膜糖タンパク質の発現が著しく増加していることが観察された。一方我々の分離した多剤耐性細胞株C-A500でも、最近カナダのグループにより報告されたMRP(Multidrug Resistance-Associated Protein)のmRNAの発現が非常に上昇していると同時に、MRP遺伝子の遺伝子増幅が見られた。MRPタンパク質の発現も、カナダのグループに依頼してイムノブロッティングで確認してもらっている。しかしながらC-A500細胞よりアドリアマイシンに対する耐性度が十分の一以下であるC-A120細胞においても、ビンクリスチンに対する耐性度はすでにC-A500細胞とほぼ同程度で親KB細胞株の250倍以上あり、アドリアマイシンの細胞内蓄積の減少の程度、MRP mRNAの発現レベル、MRP遺伝子の遺伝子増幅の程度及びMRPタンパク質の発現のレベルは、何れもC-A500細胞とほとんど同程度であった。そのためMRP以外の因子もC-A500細胞における多剤耐性に関与しているものと考えられたため、DNA Topoisomerase IIの発現と活性を比較してみたところ、C-A120細胞は親KB細胞に比べて明らかな本酵素の発現と活性の低下がみられ、C-A500細胞では更にC-A120細胞よりも低下していた。 しかし復帰変異細胞株C-ARでは、どちらもほぼ親KB細胞のレベルまで回復していた。現在MRPに対する抗体の作製を行っており、少なくとも2種の抗MRPポリクローナル抗体の作製に成功したところである。
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