研究概要 |
癌細胞の産生するserine proteinase inhibitor(SPI)は何らかの形で、がんの進展に寄与している可能性が予測されている。今回、癌細胞の産生するSPI、特にalpha-l-antitrpsin(AAT)のがんにおける生物学的意義をさぐるため、AAT高産生癌細胞株の樹立、癌細胞の産生するAATの性状の解析、AATの癌細胞増殖及び運動能への影響を検討した。 先ず、これまでに樹立したAAT産生癌細胞株に加えて、新たにAAT高産生肺腺癌細胞株LC-2/adを樹立し、その性状を検討し、報告した。次に、これらの細胞株の産生するAATの生化学的性状を検討したところ、癌由来AATは正常血清中のものに比しやや分子量が大きいことが示され、その違いは糖鎖の違いによることを明らかにした。すなわち、癌由来AATの糖鎖はCon A Iectin親和性を失い、逆に、DSA Iectin,Lotus Iectinに対する親和性を増しており、糖鎖を除去したペプチドの分子量は正常のものと同一であった。また、これらの癌細胞培養上清中には低分子化したAAT断片とAAT分解活性が存在していることもあわせて示し、報告した。最後に、AATの癌細胞増殖に対する影響と運動能に対する影響を調べたところ、明らかな細胞増殖作用は認められなかったが、AAT及びその断片は癌細胞遊走因子として作用する可能性を示す結果が得られた。 今後は、AAT、特にAAT断片の癌細胞遊走因子としての作用のさらなる解析と癌細胞培養上清中のAAT分解活性の同定を行ないたい。また、癌細胞由来AATにみられた糖鎖異常は今後、がんの診断に役立つ可能性があると思われた。
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