腎芽腫抑制遺伝子候補WT-1の産物(WT-1蛋白)に対する抗血清を作製し、同蛋白の腎発生時ならびに腎芽腫及び類縁腫瘍における発現の状況を検討することを目的とした。抗原としてWT-1蛋白アミノ酸配列のうち親水性アミノ酸が集中している2ヶ所、すなわち1)258-276;KWTEGQSNHGTGYESENHTおよび2)286-302;RIHTHGVFRGIQDVRRVをKeyhole limpet hemocyanine(KLH)をキャリアーとしてハプテン化し、家兎に感作免疫、ELISA陽性を示す抗血清を4種類得た。各種組織標本につき免疫組織化学染色を行ってスクリーニングを行ったが、通常のホルマリン固定パラフィン標本では良好な反応性は得られず、凍結標本にても同様であった。現在、マイクロウェーブ処理、抗原アンマスキングなどにより抗原性の復活を試みている。ウェスタンブロッテイングではWT-1に一致したバンドがMOLT-4などの造血系細胞株、SW41-#1(マウスSertoli細胞腫株)において検出された。今後は、腎発生期、腎芽腫ならびに後腎性腎腺腫でのWT-1の発現の検討を行っていく予定である。 また、本研究を行っている間、無虹彩症の患児に発生した腎芽腫をヌードマウスに移植、生着させることに成功した。同腫瘍は継代移植が可能で、現在、17代を数えているが、組織型に変化はみられない。組織学的には、腎芽細胞成分の他、横紋筋への分化を伴う間質成分、類器官様成分が見られる。同腫瘍は11p13の欠損がみられ、WT-1遺伝子のコピー数が正常対照の約1/2に減少していることから、WT-1遺伝子のgerm line変異に加え、残りのalleleに点突然変異が生じたことから腎芽種が発生したものと考えられた(投稿準備中)。本腫瘍株はWT-1遺伝子の、移入実験などを用いた機能解析に有用であると考える。
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