HTLV-Iの転写活性化因子であるTax1の、Tリンパ球の増殖に対する作用を、直接、明かにする目的で、我々は、レトロウイルスベクターを用いてヒト末梢血由来プライマリ-Tリンパ球へTax1を導入しその増殖特性を、コントロールベクター導入Tリンパ球との比較に於いて検討した。 Tax1導入リンパ球で観察された最も顕著な特徴は、抗原刺激を模擬するOKT3抗体による刺激に対する反応性で、コントロールベクター導入Tリンパ球の5-10倍高い増殖反応がみられた。このとき、IL-2のmRNAは検出されず、抗IL-2レセプター抗体は、ほとんど阻害効果を示さないことにより、この増殖反応は主にIL-2を介さないものであると考えられた。また、IL-3、4の関与についても、その発現パターンより否定的であった。以上の結果は、Tax1が従来考えられていたIL-2/IL-2レセプター系の活性化に伴うオートクライン以外の機構によってTリンパ球の増殖特性を変化させる可能性を示唆するものと考えられる。 この高反応性の分子機構を明らかにする目的で、OKT3抗体刺激後の最も早い反応として知られるチロシンキナーゼ-の活性化を検討したところ、Tax1導入リンパ球では、コントロール細胞と比べて抗ホスホチロシン抗体で認識されるタンパクの量的増加が観察された。この結果は、Tax1導入Tリンパ球に於いて何等かのチロシンキナーゼの活性が亢進していることを示すものであり、現在、このチロシンキナーゼの解析を進めている。
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