研究概要 |
頸動脈体の解剖学的位置及びその生理的機能に着目し、頸動脈体を抗enkephalin抗体及び抗VIP抗体を用いて免疫組織化学的に染色し、法医剖検例における窒息死の診断への有用性について検討を行った。 症例は法医剖検例のうち、頸動脈体の付近に外力が作用したと考えられる絞・扼頚症例をA群(6例)、頸動脈体付近には外力の作用はなかったと考えられる非定型的縊死、絞頚症例と、絞・扼頚後18日間生存後死亡した症例をB群(3例)、頸部圧迫による窒息を除いたその他の窒息例(鼻口閉塞、気道内異物、溺死)をC群(4例)、窒息以外の急死症例をD群(5例)に分類し検討した。 これらの症例の頸動脈体を抗enkephalin抗体、抗VIP抗体を用いて免疫組織化学的に染色した結果、主細胞が特異的に染色されるために、H.E.染色に比し主細胞の形態を容易に観察できることが明らかになった。しかし、死後1〜2日以上経過した症例については死後変化のため、主細胞の染色性が著しく低下する場合が多く認められた。 窒息症例群と非窒息症例群について免疫組織化学的に主細胞を染色し検討した結果、窒息症例群の中で特に頸動脈体の付近に外力が作用したと考えられる絞・扼頸症例(A群)の主細胞はactive cellと考えられる明細胞がほとんどであり、inactive cellである暗細胞及び濃縮細胞は散見されるのみであった。また、A群の症例では頸動脈体の主細胞とその核は他の3群に比し有意に大きくなっていることが明らかになった。 以上の結果から、A群に認められた頸動脈体の主細胞の変化は、頸動脈体に対する直接的外力(圧迫)の影響が考えられ、頸動脈体からenkephaline,VIPが放出されているものと考えられた。 従って頸動脈体を免疫組織化学的に観察することは窒息死、特に頸部圧迫による絞・扼頸の診断に有用であると考えられた。
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