研究概要 |
本研究では、大腸癌における金属プロテアーゼMMP-7の発現と浸潤能との関連を明らかとするため以下の遺伝子導入を用いた実験を行った。まず、全長のMMP-7-cDNAを発現ベクターに組み込んだもの、対照としてMMP-7cDNAを逆方向に発現ベクターに組み込んだものを構築しMMP-7発現の認められない2種の大腸癌培養細胞株DLD-1およびCHC-Y1に遺伝子導入した。次に、構成的にMMP-7を発現するようになった細胞株を選択しそれぞれDLD-Mat-S、CHC-Mat-Sと命名した。また、逆方向に発現させるベクターを導入した細胞株をDLD-Mat-ASおよびCHC-Mat-ASとした。DLD-Mat-SおよびCHC-Mat-SはMMP-7 mRNAを通常のNorthern blot法で検出しうるレベルに発現していた。また、遺伝子導入をすることはすでに癌細胞浸潤との関連が報告されている72kDIV型コラゲナーゼmRNAの発現には影響を与えないことを確認した。これらの細胞株を人工的に再合成した基底膜(マトリゲル)に対する浸潤能を用いて評価したところ、DLD-Mat-SおよびCHC-Mat-SはDLD-Mat-AS,CHC-Mat-ASと比較して約2倍の浸潤能を示すことを明らかとした。すなわち,MMP-7cDNAの導入により浸潤能は約2倍に高まることになり、大腸癌においてきわめて高頻度に発現しているMMP-7が大腸癌細胞の浸潤に関連していることが示唆された。現在、in vivoにおいて浸潤能を検討する系を確立しつつありさらに検討を続けている。なお、MMP-7は平成5年度中に大腸癌の他にも前立腺癌において癌細胞浸潤との関わりが明らかにされている。
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