研究概要 |
癌胎児性抗原(CEA)は肺癌組織のみならず正常気管支肺胞上皮においても発現することが知られている。特に喫煙者及び間質性肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中のCEAが正常非喫煙者のそれに比べて増加することが報告され、慢性気道炎症との関わりが示唆される。本研究は喫煙刺激による気道上皮細胞におけるCEA発現機序を明らかにすることを目的とし、肺組織におけるCEA蛋白及びmRNA発現を非喫煙者、喫煙者間で比較した。対象は非喫煙者(NS)4例、前喫煙者(ES)5例(少なくとも3年以上禁煙、喫煙指数55±42 pack-years)、喫煙者(SM)9例(45±12 pack-years)で、背景疾患は限局性肺腫瘍(肺癌16例、胸膜中皮腫1例、滑膜肉腫1例)である。これらの症例の手術または剖検で得られた非癌肺組織標本を採取した。CEA蛋白の発現は肺組織ホモジネート中のCEAを酵素免疫測定法により定量し、mRNA発現はCEA特異的cRNAプローブを用いて In situ hybridizationを行い、細胞当りの平均粒子数を暗視野顕微鏡下に算定し半定量した。肺組織単位重量当りのCEA蛋白はNSで12.3±5.3(ng/mg protein,mean±S.D.)、ESで5.9±2.2、SM32.2±23.3とSMで有意に増加していた(p<0.05)。In situ hybridizationよる単位細胞当りの平均粒子数は、NSで3.2±0.7(grain/cell)、ESで4.0±1.7、SMで14±8.4とSMで有意にCEA mRNAの発現が亢進していた(p<0.05)。また細気管支肺胞領域でのCEA mRNAの発現分布は一様であり、気道上皮のみではなく線維芽細胞などの間質系細胞での発現の可能性も示された。以上の結果より喫煙刺激による肺組織のCEA発現増加には局所の気道上皮や間質系細胞でのRNA発現亢進を介する蛋白産生が大きな役割を果たすことが示唆された。
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