研究概要 |
近年apolipoprotein(apo)が、神経疾患の病因、病態に関与している可能性が注目されるようになってきた。アルツハイマー型痴呆脳では、apo Bやapo Eが老人班、神経原繊維変化に陽性に染り、異常蓄積物形成に関与する可能性が指摘されている。Apo(a)での検討は、従来動脈硬化の分野に限られており、脳での生理的、病的役割は全く不明であった。最近サルの脳においてapo(a)のmRNAが発現することが報告され、脳で独自に合成されている可能性が示された。そこで、我々はヒトの臓器、各種細胞においてapo(a)のmRNAが発現しているかどうかを検討した。 [対象と方法]神経疾患を有さない患者剖検脳と肝臓、各種培養細胞(glioblastoma,meningioma,Hella cell,肝細胞癌,皮膚線維芽細胞,他)より、グアニジン法を用いてtotal RNAを抽出した。上記より得られたRNAをアガロースゲル電気泳動後、メンブレンフィルターにブロットし、apo(a)cDNAをプローブにハイブリダイゼーションを行った。 [結果]肝臓及び肝細胞癌ではapo(a)mRNAの発現を認めたが、脳では認めなかった。また、培養細胞ではglioblastomaにのみapo(a)mRNAの著明な発現を認めた。 [まとめ及び考察]脳でapo(a)mRNAの発現を認めなかった点が予想に反していたが、最も多く合成されていると考えられる肝臓でもそれほど多くなかったことにより、検出感度以下であった可能性がある。今後は、RNA量を増やす、もしくは感度のより良い方法を採り入れるなどして検討したいと考えている。ヒト脳での発現が確認できれば、アルツハイマー型痴呆脳での検討を行う予定である。一方、glioblastomaで著明なapo(a)mRNAの発現を認めたことは脳細胞でapo(a)を合成していることを示すものであり、またglioblastomaの急速な進展や組織破壊にapo(a)が何等かの関与をしている可能性が考えられる。
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