毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor、CNTF)は末梢および中枢神経系のニューロンやグリアにさまざまな作用を示す。我々はヒト坐骨神経組織cDNAライブラリーからCNTFのcDNAをクローニングする過程で、200個のアミノ酸残基からなるタンパクをコードする正常のCNTFのcDNAに加えて、翻訳領域に4塩基の挿入配列を有するCNTFの変異cDNAクローンを単離した。変異cDNAは挿入以降読み枠がずれ、C末24個はユニークな配列となる、62個のアミノ酸残基のタンパクをコードしていた。CNTF遺伝子の配列を直接シークエンス法で解析したところ、グアニン(G)からアデニン(A)への点突然変異によってイントロン内に新たにスプライス受容部位(AG)が形成され、挿入配列に一致するイントロンの配列がエクソンに組み込まれることが判明した。変異遺伝子からのmRNAの転写を、変異遺伝子を導入して強制発現させた培養細胞と剖検で得られたヒトの組織で検討した結果、培養細胞でも生体内でも変異遺伝子からは変異型のmRNAしか転写されないことが明らかになった。さらに変異CNTF融合蛋白を認識する抗血清では、変異mRNAから産生されるはずの変異タンパクは検出できなかった。すなわち我々が同定した変異遺伝子はスプライシングの異常を引き起こすことにより、CNTFを実質的に欠失させるnull mutationであることが明らかになった。この変異遺伝子の分布は、正常人151名、神経疾患の患者240名、計391名での検討で、正常のホモ接合型は242名(61.9%)、ヘテロ接合型は140名(35.8%)、変異のホモ接合型は9名(2.3%)であった。変異遺伝子の頻度20%の高率であった。CNTFを完全に欠失している変異のホモ接合型の頻度は正常人と患者で統計学的に有意の差はなかった。したがって、ヒトにおけるCNTFの欠損は、神経疾患の病因には関与しないと結論された。
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