我々は、すでにphospatidylglycerolを乳化剤とした新しい脂肪乳剤を開発し、経静脈投与における有用性を報告してきた。今回、中性脂肪としてジグリセリドを用いたO/Wエマルションを新たに開発し、その経腸栄養法における有用性を検討した。 オレイン酸単独またはなたね油構成脂肪酸を原料に、位置固定化リパーゼを用いる酵素法にて、それぞれジオレインジグリセリドまたはなたねジグリセリドを生成し、レシチンを乳化剤として10%ジオレインエマルションと10%なたねジグリセリドエマルションを試作した。十二指腸瘻を作成した8週齢雄性ラットに2種類のジグリセリドエマルションを経腸投与し、その消化吸収動態を脂質代謝、リポ蛋白代謝の面からおよび透過電子顕微鏡を用いて形態学的に検討した。対照としては大豆油が主成分である市販の10%Intralipidを用いた。その結果、Intralipidでは、カイロミクロン中の中性脂肪の上昇は経腸投与後1時間にピークになるのに対して、2種類のジグリセリドエマルションでは、投与後10分という極めて早期から血中カイロミクロンとHDL中の中性脂肪の上昇を認め、ジグリセリドは従来のトリグリセリドとは全く異なる迅速な消化吸収動態を示すことが初めて明らかになった。一方、ジグリセリドエマルションの小腸での吸収を電子顕微鏡にて観察すると、小腸吸収上皮内でのカイロミクロンの形成は極めて迅速であり、一部のエマルション粒子は微絨毛間を経て吸収細胞間隙よりendocytosisを受けるという新しい取り込み形態も判明した。 今後、このジグリセリドエマルションの経腸栄養法における有用性を、病態モデルを用いてさらに詳細に検討すれば、外科栄養上有用な脂肪成分栄養剤となり得ることが示唆された。
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