本研究では、動物実験と臨床研究を計画したが、臨床研究については期間内に本術式の適応症例が得られず実施できなかった。動物実験については、方法論的な問題から実験動物をブタからイヌに変更して実施した。 系統的術式の確立に関しては、目的とした左側内蔵神経切断は、イヌを右側臥位とし、第8助間に胸腔鏡用トロッカーボ-トを作成、その前後にさらに2個のボ-トを置くことによって、下行大動脈に沿って走行する左側内蔵神経幹を容易に確認できた。横隔膜直上で同神経幹を剥離・露出後、約2cm長にわたり切除した。左肺を十分に拡張させた後、胸壁は一期的に閉鎖して手術を完了した。 術式の非侵襲性および安全性の評価については、麻酔から完全覚醒後より飲水・摂食も手術前と同様に可能で、翌日からは行動全般にわたり手術前と全く同様であった。また、内蔵神経切断の全身循環動態に対する影響として、内蔵神経幹切断直後に軽度の動脈圧低下、脈拍数増加、心拍出量増加、等があったが、ほどなく切断前値に回復した。血液生化学および内分泌学的パラメータに関しては、麻酔、手術侵襲の影響が術後1日までわずかにみられた以外、術後一ケ月まで本術式に固有の異常をみなかった。手術一カ月後の剖検では、胸腔内および腹腔内諸臓器に異常をみとめなかった。 今回の研究によって、胸腔鏡下内蔵神経切断術の系統的術式が確立され、また本術式の安全性および低侵襲性が示された。今後、本術式の臨床応用とその総合評価が必要になるものと考えられる。なお、本研究結果の一部は、第43回日本消化器外科学会総会(1994、2、24-25、東京)および第94回日本外科学会総会(1994、3、29-31、東京)において発表する。
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