肝移植、肝切除に際し、肝虚血-再灌流障害は回避できない重要な問題である。この機序に関しサイトカインおよび細胞間接着分子の関与が示唆されている。今回われわれは、ラット肝虚血-再灌流障害モデルを用い、IL‐1alpha、TNFの産生、肝の病理組織学的変化、免疫組織染色による接着分子発現、およびIL‐1受容体拮抗物質(IL‐1 receptor antagonist;IL‐1ra)投与によるこれらパラメーターの変化について検討した。 体重200〜300gのSD系雄性ラットを用いた。単開腹群をコントロールとし、虚血-再灌流群はIL‐1ra投与群、非投与群の2群に分けた。投与群は、虚血5分前に門脈よりrecombinant IL‐1ra(rIL‐1ra)を40mg/kg静注した。肝正中葉・外側左葉を90分間部分温阻血した後、再灌流を行った。再灌流直前、30、90、180分後にそれぞれ腹部大動脈より採血を行い、屠殺後、障害肝を摘出した。血清、肝組織中のIL‐1alpha(ELISA)、TNF(L929 bioassay)を測定し、肝組織は、HE染色、免疫組織染色(抗ラットICAM‐1抗体)により検討した。IL‐1alphaは血清中では検出されなかったが、肝組織中では増加していた。TNFは血清、肝組織中で再灌流後時間的経過に伴い増加していた。肝組織中のICAM‐1も、再灌流90分後より肝類洞壁に発現した。光顕所見では、再灌流直前では病的変化はまったく認めなかったが、30分後では高度のうっ血を、その後時間的経過に伴い肝細胞の変性・壊死の増加が認められた。一方、rIL‐1ra投与により、血清、肝組織中のTNF産生の有意な抑制、および肝細胞障害の軽減が認められた。 肝虚血-再灌流障害では、ICAM‐1の発現とTNFの産生増加が肝障害の経時的変化と相関し、さらにこれらの病態においてIL‐1が重要な役割を担っていることが明らかにされた。このことより、rIL‐1raが肝虚血-再灌流障害の治療において臨床応用される可能性が示唆された。
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