食道癌手術では再建臓器に制約があり、その手術侵襲の大きさと臓器犠牲の面より人工食道の開発が待たれている。しかし、現在までに開発された人工食道は吻合不全と狭窄により臨床応用には難しい状況にある。今回、シリコンチューブ(内径3cm、長さ3cm)の外側をEGFを添加したコラーゲンで被覆し人工食道とし、雑種成犬4頭に対して頸部食道の部分置換実験を施行した。全麻下に犬の頸部食道を露出後切断し、人工食道を吸収糸Vicry13‐0を用いて端々吻合した。術後は経口摂取を中止し、IVH(60Cal/kg/day、80ml/kg/day)で管理をした。最長生存期間は3週間で、最短生存期間は1週間であった。それぞれ死亡時に解剖し、人工食道部分を含んだ頸部食道を摘出し病理学的に検索した。頸部食道のHE染色にて、術後1週目(7POD)より結合織の増生を認め、術後3週目(21POD)には食道上皮の人工食道外側への進入をみとめた。同検体をKeratin染色したところ食道重層偏平上皮基底層の存在が認められた。以上の結果より本人工食道の臨床応用への可能性が示唆された。しかし、術後の管理に問題が残り長期生存例を得ていないため、術後の狭窄に対しては依然解決されておらず、今後術後管理の改善が必要と思われた。また、上皮再生の改善を目的にEGFを添加しているが、EGFの上皮再生過程における役割を検索するために現在、人工食道コラーゲン層へのEGF添加、非添加の2群による吻合実験を考慮している。
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