研究概要 |
今回の研究の目的は、神経損傷後の異常感覚モデルにおいて、神経損傷後の時間経過と麻薬系鎮痛薬及びNMDAレセプター拮抗薬の異常感覚に対する効果との関係を明らかにすることにあった.麻薬系鎮痛薬の代表的なものであるモルヒネを髄腔内投与すると,神経損傷後1週間では熱刺激に対する逃避反応の潜時が延長し良好な鎮痛効果を示すが,神経損傷後5週間では逃避反応の潜時は延長することはなかった.一方,NMDAレセプター拮抗薬の代表的なものであるMK-801を髄腔内投与すると,神経損傷後1週間でも5週間でも同様に異常感覚を選択的に抑制した.以上の結果から,神経損傷後の異常感覚に対する麻薬系鎮痛薬の効果は神経損傷後の時間経過とともに変化することが明らかになった.このメカニズムは明らかではないが,このような事実が臨床上麻薬系鎮痛薬の神経因性疼痛に対する効果が一定しないという事実の説明となるものと考えられた.またNMDAレセプター拮抗薬は,神経損傷後の時間経過とは関係なく常に神経損傷後の異常感覚を選択的に抑制する.このことは神経損傷後の異常感覚は脊髄におけるNMDAレセプターを介したメカニズムで常に異常感覚が維持されていることが示唆される.この様に,末梢神経を損傷するとモルヒネの結果からは,脊髄における疼痛伝達機構が時間経過とともに大きく変わっていることが示唆されたが,一方NMDAレセプター拮抗薬の結果からは,脊髄における異常感覚維持におけるNMDAレセプターの普遍的役割が示唆された.従って,今後神経因性疼痛の治療にはNMDAレセプターに注目した治療法の開発が有望であると考えられる.
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