今回我々は脳血流、脳圧および脳酸素消費量を測定し、脳に対する高体温の影響について検討を加えたので報告する。 【対象・方法】体重9〜15kgの雑種成犬20頭を用いた。ペントバルビタール25mg/kg、パンクロニウム0.2mg/kg静注後気管内挿管し、ペントバルビタール1mg/kg/hrで維持、パンクロニウムを適宜追加し、人工呼吸を行った。 血行動態の測定項目は、心拍数、観血的動脈圧、中心静脈圧(CVP)、電磁血流計による心拍出量(CO)、心係数(CI)とし、脳循環の測定項目は、電磁血流計による内頸(CABF)および椎骨動脈血流量(VABF)、水素クリアランス血流計(H_2Cr)による皮質および髄質血流、レーザードップラー血流計(LD)による皮質血流とした。動脈血酸素含量(CaO_2)と脳静脈血酸素含量(CcvO_2)より脳酸素摂取率を求めた。脳圧測定用カテーテルにより脳圧(ICP)を測定した。測定点は38、39、40、41、42、43℃および43℃で1時間維持した時点の7点とした。 【結果】心係数は38℃3.16±0.33(1/min/m^2)に比較し、42℃4.45±0.62、43℃5.04±0.67と有意に増加し、以後減少した。CABFは38℃96.7±16.4(ml/min)に比較して42℃195.1±37.5、43℃246±46.8と有意に増加し、以後減少したが、VABFは38℃53.8±10.0、43℃56.6±9.4と有意な変化はなかった。H_2Crでの脳皮質血流は38℃75.9±15.5(ml/min/100g)、43℃80.5±18.5、髄質血流量は38℃30.5±5.93、43℃38.9±8.4で、LDでの皮質血流料は38℃71.7±12.6、43℃74.8±15.8といずれも有意な変化はなかった。脳圧は38℃15.1±2.7(mmHg)に比較して42℃26.4±3.9、43℃31.8±5.0と有意に上昇し、以後低下した。脳酸素摂取率は38℃14.3±2.4(%)、43℃15.7±2.5で有意な変化はなかった。 脳に流入する血液量は増加しても、脳の組織血流量に変化はなかった。また脳圧は有意な上昇を見たが、代謝量に変化は見られなかった。 したがって脳は他の臓器に比較して、生体においてはより強く保護されているものと思われた。
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