血圧調節系の鍵を握る酵素レニンは、近年腎以外の臓器(唾液腺、子宮、血管、脳、精巣)において存在意義が論じられている。前回我々はレニンのmRNAに着目し、RNAase protection assay法による精巣内レニンmRNA測定法を確立し、精巣のレニンmRNAは下垂体性のゴナドトロピンによりコントロールを受けており、しかもこの調節系は腎臓とは全く独立したものであることを突き止めた。 今回生殖器系レニンアンジオテンシン系の精子運動性に及ぼす影響につき、検討した。 すなわちアンジオテンシンII、プロスタグランディン、ブラディキニンは人精子の運動率、頭部振幅、速度を強く刺激するようである(最大で対照群に比べそれぞれ2.1倍、1.5倍、1.7倍)。また凍結精子に対する影響もほぼ非凍結精子におけるそれと同じ傾向であった(最大で対照群に比べ1.2倍、1.3倍、1.6倍)。 現在不妊症治療は従来の薬物療法に限界を認め、人工受精、顕微鏡下受精と様変わりしている。その結果、精子運動の質的な評価、そしてその調節因子の解明はその効率を高めるため益々重要な課題となってきている。 我々はこれまで酸性フォスファターゼ、カフェイン、下垂体性ゴナドトロピンなど数々の物質の精子運動に与える影響を精子運動自動解析装置を用いて検討してきたが、いずれも満足のいく結果は得られなかった。 ところがここ数年、我々は生殖器系レニンアンジオテンシン系の調節、意義につき研究を重ねていくなかで、精漿中レニン、アンジオテンシンIIが精子運動に深く関わっていることを突き止めた。 本研究はこのメカニズムを詳細に検討することにより、男性不妊症の治療に新しい展開をもたらすものである。
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