研究概要 |
本研究は、子宮内膜症の組織発生機序に関し考案することを目的に、内膜症発生機序の一説である胎生体腔上皮化生説に基ずき、骨盤腔内の腹膜中皮及び卵巣表層上皮細胞の段階的なミュラー管型腺上皮化生の可能性につき検討した。 正常腹膜中皮から化生段階への変化を捉える可能性を持つ部位として、腹膜ならびに卵巣の内膜症初期病変及びその周辺腹膜を、子宮内膜症患者より同意を得た上で手術的に採取し、凍結病理切片を作製し、腺上皮細胞を特異的に認識する抗上皮性抗体Ber-EP4及びミュラー管由来器官に発現するエストロゲン受容体ER及びプロゲステロン受容体PRの免疫組織染色を実施した。 対照として検討した正常腹膜中皮には、Ber-Ep4,ER,PRの発現は認められなかったが、内膜症組織近傍腹膜においては、部分的に中皮細胞が陽性所見を示す像が得られた。また、卵巣表層上皮細胞においても、部分的にBer-EP4,ER,PRの発現が見られることが明かとなった。この結果は、本来胎生期には胎生体腔上皮として、女性生殖器の原器であるミュラー管と起源を同じくする腹膜中皮及び卵巣表層上皮が、ミュラー管由来腺上皮型の化生変化を生じうる可能性を持つことを示したものであり、即ち、骨盤腹膜中皮ないし卵巣表層上皮細胞が何等かの因子により、ミュラー管由来臓器の一つである子宮内膜腺に類似した腺上皮化生を生じ得ることが強く示唆された。そして、このことは、子宮内膜類似組織が異所性に増殖する疾患である子宮内膜症の発生に関与する可能性が有ることを示すものと考えられた。 以上の結果については、論文として、雑誌投稿中である。
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