顔面運動の制御機構を検討するために、気管内挿管、フローセン麻酔下ニホンザルの前頭葉運動野顔面運動支配領域を磁気刺激し、口輪筋から誘発電位を記録しようとしたが、再現性のある電位は得られなかった。しかし、耳後部を磁気刺激すると、2〜6mVの複合筋活動電位が刺激側口輪筋にのみ得られた。この事は、ネコにおいては、耳後部を磁気刺激した場合のみ脳幹より末梢の顔面神経が刺激されるだけで、脳幹より中枢側が関与する表情運動の制御機構を検討することは不可能であると結論した。磁気刺激誘発筋電図を臨床応用する目的からすれば、ニホンザルは不適当であると考えられた。そこで顔面運動制御機構を検討するために、ヒトの被検者を募り、検討した。検討目的は、臨床応用し得る磁気刺激による誘発筋電図の記録手技の確立と、表情運動の制御機構の検討である。 外耳道より6cm上方、さらに3cm後方を円形コイルの中心とし、コイルに1000V以上の電圧で通電すると、脳幹より末梢側、おそらく内耳道内顔面神経を最大域値上で、電気刺激できることが分かった。これにより、刺激側口輪筋より潜時4〜5msec、振幅2〜6mVの再現性のある複合筋活動電位が得られた。この事は、末梢性減面神経麻痺の多くが側頭骨内顔面神経の障害である事や、さらに従来検査法では障害側より末梢側しか電気刺激できなかった事を考えれば、末梢性顔面神経麻痺への臨床応用はかなり重要な意義をもつものと考えられた。三叉神経を先行電気刺激し、脳幹顔面神経核を興奮させた状態で、同様の検討を行ったが、これからは、顔面神経磁気誘発電位に大きな変化はなかった。この事から、脳幹の核レベルより末梢では、顔面表情運動の制御に関しては大きな役目はしていないと結論した。
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