目的:ヒト水晶体の調節は眼内各器官の総合的な働きにより機能しているが、近見調節時から遠見調節時に水晶体が偏平化するためのチン小帯張力や、強膜、脈絡膜張力などの生理的機能はなお不明な点がある。低眼圧誘発試験で毛様筋収縮によらない水晶体肥厚が生じることが知られている。そこで摘出動物眼に眼内圧を維持させ強膜、脈絡膜張力の測定を行いあわせてチン小帯への牽引力の評価を行った。 方法:摘出豚眼23検体に、カニューレを挿入し圧制御コンプレッサー装置(グリスハーバー)を用い眼内圧をコントロール、内圧は半導体トランスデューサーでモニター(EG60IG)した。次に強膜、及び毛様体偏平部、赤道部強膜を開窓して露出させた脈絡膜上にストレッチセンサーを子午線と赤道方向に装着した。発生した張力によるセンサーの抵抗変化をひずみ圧力用アンプ(AP601G)で増幅した。これはアンプの入力電位に対する電位変化として測定される。今回はこの変化量(mV/mmHg)を張力として評価した。 結果:(1)30mmHg以内の眼内圧上昇にともない豚眼の強膜、脈絡膜張力はほぼ直線的に増大した。 (2)脈絡膜上での輪部子午線方向と赤道方向、また赤道部子午線方向と赤道方向の張力はそれぞれ10.2、6.3、8.1、6.4(mV/mmHg)であった。強膜上のそれは4.6、4.1、5.3、3.1(mV/mmHg)であった。 (3)5mmHg以下の内圧では強膜張力は測定不能であった。 結論:同部位における脈絡膜張力は、強膜張力を上回っていた。脈絡膜張力は赤道方向より子午線方向が強い。脈絡膜張力子午線方向は、輪部、赤道部において有為差はなかった。よって、脈絡膜輪部内腔面においても同様の張力の存在が示唆され、これがチン小帯張力の発生に関与すると考えられた。
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